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映画レビュー:トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

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 今回紹介する映画は『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』
 
 10億円を投じて再現された九龍城砦のセットや日本人アクション監督・谷垣健治の参加など、日本でも公開前から話題を呼んだ本作は、香港映画史上歴代1位の観客動員数を叩き出し、香港映画ファンのみならず多くの映画ファンの注目を集めた作品です。

 
 率直な感想を述べると、想像していた以上にしっかり楽しめる作品でした。
 九龍城砦の再現度は噂どおり圧巻で、アクションも見応えがあり、物語の熱量も十分。
 ただ一方で、公開当時の絶賛ぶりを踏まえると、「ここは少し持ち上げられすぎているのでは?」と感じる部分もあったのも事実です。
 なので今回は、過剰な前評判に引っ張られないフラットな視点で、本作の魅力と気になった点をまとめていこうと思います。


作品概要(簡潔に)

『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』は、ソイ・チェン監督による香港アクション映画で、余兒(Yuyi)の小説およびその漫画版『九龍城寨』を原作としています。
主演はルイス・クー、レイモンド・ラム、フィリップ・ン、サモ・ハン、リッチー・レンなど、香港映画を代表する俳優たちがズラリと名を連ねており、まさに香港映画の「今」を象徴する作品として、最高の人材が揃っています。

以下あらすじです。

1980年代、香港へ密入国したチャンは、黒社会のルールを拒み己の道を選んだことで組織に目をつけられてしまう。追い詰められたチャンが逃げ込んだのは、無数の黒社会が覇権を争う九龍城砦。そこで3人の仲間と出会ったチャンは、彼らと深い友情を育む。しかし、九龍城砦を巻き込む抗争は激化し、チャンたちは命を懸けた戦いに身を投じていく。
引用元:https://press.moviewalker.jp/mv87427/

良かった点その① 九龍城砦を再現した圧巻の美術表現

 映画について語る前に、そもそも九龍城砦とは何かというな説明をしなければなりません。
  

引用:九龍城砦 - Wikipedia

 九龍城砦は、かつて香港・九龍地区に存在した巨大スラムで、正式名称は「九龍寨城」。 3ヘクタールほどの土地に、建築法を無視した500棟の建物が隙間なく密集し、迷路のような構造になっていました。
 どうしてこのようなスラムが生まれたかというと、1800年代末頃から1900年代前半にかけて香港は、清、イギリス、日本と支配者が目まぐるしく変わったことや中華民国の台頭などもあり混乱の渦中にありました。
 こうして各国の思惑がぶつかり合う中、何の因果か九龍城砦はどの勢力の主権も及ばない“空白地帯”となっていきます。
 第二次世界大戦が終わり中華人民共和国の支配に変わった後も、内政による混乱から九龍城砦に逃げ込む難民は後を絶たず、増築に次ぐ増築が重なり、「東洋の魔窟」と呼ばれるスラムが完成したわけです。
 そんな九龍城砦ですが、香港政庁が1987年1月に取り壊しを発表した後に、1992年7月までに約2万8千人の住民を立ち退きさせ、翌1993年から1994年にかけて取り壊しを行い、現在は公園になっています。

 
 そんな背景を持つ九龍城砦は、単なるスラムではなく、混沌と生活感が同居した唯一無二の都市として、後のサブカルチャーに大きな影響を与える存在になりました。
 異様な密度と雑多なエネルギーが織り成す退廃的で迷路のようなスラム街といったビジュアルは、当時のクリエイターたちにとって格好のモチーフで、九龍城砦の影響を受けた作品は数えきれないほど存在します。
 そうした作品群に触れて育った世代にとって、九龍城砦は“恐ろしくも魅力的な場所”として、特別な憧れやロマンを抱かせる存在になっているわけです。
 
 こうした文脈を踏まえると、本作の九龍城砦の再現度は本当に見事と言うほかありません。
 路地の湿った空気感、雑多な看板、生活感のある小物の数々──どれを取っても完璧!
 10億円を投じた巨大セットは、写真でしか見ることが出来なかった九龍城砦を、ほとんどそのまま現代に蘇らせており、まるで1980年代の香港にタイムスリップしたかのようです。
 

 九龍城砦に思い入れのある人にとっては、夢にまで見たあの空間に 足を踏み入れているような気分になること間違いないでしょう。
 一方で、こうした文脈や憧れがない場合、この時間旅行の感覚はそこまで強くは響かず、単に「よく作り込まれたセット」として受け止められてしまうかもしれません。

 なので、思い出補正によって盛られてる部分もあるというところは留意した方が良いでしょう。

良かった点②アクション監督谷垣健治氏が見せる武の世界

 美術と並んで本作でもうひとつ強調したいのが、アクションの素晴らしさです。
 九龍城砦の美術が“空間の説得力”を生み出しているなら、アクションはリアリティマシマシな空間に“生命”を吹き込んだと言っても良いでしょう。

 特に印象的だったのは、アクション監督を務めた谷垣健治さんがインタビューなどで語っていた 「スピードは速くても、何をやっているのかは分かること」
という哲学が、見事に反映されていた点です。

 キレがあってスピード感も抜群なのに、観客が置いていかれることがない。どこから攻撃が来て、誰がどう受けて、どう返すのか──その流れが常に視覚的に理解できるようにカメラワーク含めて緻密に設計されています。
 これは本当に凄い。
 何がなんだか分からない、というストレスが無いので、普段アクション映画を見ない人にも自信を持ってお勧めできるクオリティです。

 
 更に言うならば、狭い路地での近接戦、階段を使った立体的な動き──こうしたアクションの組み立てが、舞台が九龍城砦であることの価値をさらに引き上げているのも素晴らしい点でした。
 入り組んだ構造、無秩序に積み上げられた階層、逃げ場のない狭さ……
 これら九龍城砦の特徴がアクションの一部として機能することによって、“この空間だからこそ成立する動き”を“この映画でしか見ることの出来ないアクション”へと昇華しています。
 要チェックです。

 

気になった点

 ここまでベタ褒めしてきましたが、いくつか気になった部分も正直に触れておきます。
 とはいえ、作品全体の魅力を損なうほどではなく、「気になる人は気になるかも」という程度のものです。

 まず、ルイス・クー演じるロンギュンフォンをはじめ、魅力的なキャラが多かったせいで、主人公チャンのキャラが埋もれてしまっている印象がありました。
 もちろん、チャンの“普通の青年が巻き込まれていく”という立ち位置は物語上必要なのですが、ブルース・リーやジャッキー・チェンのようなインパクトのある主人公を期待していると肩透かしを食らうかもしれません。


 次に、敵キャラの“格”がやや弱く感じられてしまう点です。
 序盤で主人公に出し抜かれてしまう描写があるためか、敵側に“圧倒的な強者”としての格があまり感じられず、緊張感が少し薄れてしまったように思います。

 また、ラスボスが操る“気功”の描写だけ、作品全体のリアリティラインから少し浮いて見えたのも気になった点です。
 九龍城砦の生々しい空気感や、谷垣アクションのリアリティ重視の方向性と比べると、そこだけ別作品のようなトーンになってしまっている印象がありました。
 

まとめ:期待値さえ整えれば、確かな満足が得られる一本

 個人的な感想としましては『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』は、減点方式で見れば100点満点中90点、加点方式で見れば100点を軽く超えてくるような作品でした。

 シナリオ自体は可もなく不可もなく、王道のアクションドラマといった印象ですが、それを補って余りあるのが緻密に作り込まれた九龍城砦の美術と、谷垣健治アクションのキレと分かりやすさです。
 この二つは誰が見ても楽しめるレベルで、映画の“体験”としての満足度を大きく押し上げていると断言できます。
 一方で、キャラクターの立たせ方は、人によっては引っかかるかもしれません。

 良いところもあれば、悪いところもあるという映画なので、熱狂的なファンの声をそのまま受け取って期待値を上げすぎると、肩透かしを感じる可能性が大いにあります。
 そこだけは注意されたほうがいいかと思います。

 とは言え、本作が香港映画の歴史を塗り替える傑作であることは疑いようもない事実です。
 九龍城砦という唯一無二の舞台をここまでの解像度で再現し、その空間を最大限に活かしたアクションは是非一度見てみることをお勧めします。