ほぼ週刊★平民貴族

面白き ことも無き世を 面白く

消えていく香りといつか来る終わりと

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衣服に残る洗剤の香りを強く意識するようになったのはいつからだろうか。

実家に住んでいた当時、家の洗濯物から香る洗剤の匂いなんかは気にも留めなかった。
それはあって当たり前の、匂いと言うよりはもはや空気そのものだったからだ。

大学生になって一人暮らしをしていた頃はと言うと、少しでも生活費を抑えようと香りつきの洗剤には目もくれず、棚の右下あたりに置かれた見たことも聞いたこともないメーカーが販売する一番安い洗剤ばかり使っていた。

大学を卒業して社会人になってからも一人暮らしは続いた。

慣れない環境で始めてのことばかりで精神的に参っていた自分は、だからこそ親にこんな姿を見せて心配をかけたくないと実家を避けるようになっていた。

しかし、年末年始に申し訳程度の連休が入ると、友人もいないこの町で独りで年を越すことが急に不安になってきた。

独りが寂しいのではない。ただ、独りが平気な自分になっていたことがとても悲しかったのだ。

家族で過ごす年越しは、それはもういつも通りの年越しになった。

我が家は年越しは焼き肉と決まっていて、テレビは必ず紅白を点ける。自分が生まれる前から我が家の年越しは変わらない。

変わることを余儀なくされる人生において、変わることなくそこにあり続けるものは時として大きな心の支えになる。

久方振りの日常に心を休め、下宿先に戻った自分は、さぁ明日からまた仕事だぞと、憂鬱になりかけた自分を鼓舞しながら無造作にスーツケースを開けた。

スーツケースの中には母が洗濯して畳んだ休暇中に着ていた衣服が入っていた。

衣服に残る洗剤の香りを強く意識したのは確かこの時が初めてだった筈だ。

社会人になって孤独感に苛まれていた自分に、親から愛されていることを改めて教えてくれたのがその香りだった。

今でも実家に帰ったあと洗濯物から漂う香りが鼻腔をくすぐる度にその時のことを思い出す。

あのときからもうすぐ10年が経とうとする。

まだ両親も元気で、変わらない日常がもう暫く続きそうだ。

しかし、永遠ではない。

香りがやがて消えていくように、終わりはいつか来る。

それでも、いやだからこそ。

母は今日もあの洗剤を使っているのだろう。






「すごいニオイ」#ジェットウォッシャー「ドルツ」


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